骨董品・美術品の買取は、ブランド品や貴金属と違って、素人目にはその価値が大変わかりにくいものです。本コラムでは、「骨董品査定のポイントと高価買取を狙うコツ」と題して、これまで骨董品買取にご縁のなかった方へ専門店で査定時に注目するいくつかのポイントのや査定事例を解説し、高価買取を実現するための具体的なアドバイスをいたします。
目次
1 骨董品の査定で差が付くポイントとは?
価値がないと決めつけないでまずは査定を依頼する
実家で暮らす親御さんが施設に入ることになったり、相続が発生したりして実家の荷物の整理が必要になることがあります。親御さんはできるだけものは捨てないという世代ですから、もう袖を通すことのなさそうな衣類や昔もらった引き出物や記念品、古いオーディオ、海外旅行のお土産などが押入や納戸いっぱいにしまわれています。思い切って処分するしかありませんが、困るのが掛け軸や茶道具、絵画、陶磁器などの骨董品や美術品です。要らないのは分かっていてもごみと同じ扱いにしてしまうわけにはいかず、もしかしたら価値のあるものが紛れ込んでいるかもしれません。骨董品や美術品、かなり量のあるコレクションが出てきたら、ぜひ査定してもらいましょう。
骨董品・美術品の買取専門店に依頼する
その時、気をつけたいのは、骨董品や美術品の買取専門店に依頼するということです。単身、または夫婦のみで暮らす高齢者世帯が増えるなか、「実家整理」「不要品片付け」のサービスを提供する業者が増えています。そのなかには時計や貴金属、着物や家電製品などを買い取り、整理費用と相殺して安くしますというサービスを謳っているところもあります。一度にすべて片付き、買取で費用が安くなるならありがたいとサービスを利用する人もありますが、こうした片付け業者に骨董品や美術品を適正に査定できる査定士はいません。損をすることがないように低価格で買い取ろうとするので、本来の価値を反映した価格が示されることもありません。骨董品、美術品の買取の依頼は、ぜひ専門店に依頼してください。もし掛け軸が多いなら掛け軸の扱いが多い店、同じように絵画が多い、陶磁器が多い、という場合はそれぞれの専門性が高い店がお奨めです。
高価買取の裏技〜買取専門店の「買取強化」を見逃さない
骨董品、美術品は掛け軸や絵画、陶磁器だけではありません。例えば、書や彫刻作品、刀剣・甲冑類、仏像、仏教美術品、中国美術品、茶道具、象牙・珊瑚などの工芸品、西洋アンティークなどさまざまなものがあります。骨董品や美術品の買取専門店は幅広く対応しますが、特に自店の専門性を活かすために、一定の種類のものを「買取強化品」と銘打って重点的に扱っている場合があります。その品物の取り扱いが多いことから知識の幅も広く、また販路も多く確保しているため、より高額な査定も期待できます。
また一定の品目に限って「買取強化月間」などを設けている店もあります。その品目について業者間の展示会やオークションが近く開催される、といった場合に設定されることが多いのですが、通常より高い金額で買取が行われることもあります。「買取強化品」「買取強化月間」はぜひ見逃さないようにしたいものです。
生前整理や遺品整理などで骨董品が数多く出てきたという場合は、幅広いジャンルを扱う買取専門店に出張査定・出張買取を依頼するのが得策です。「これは値打ちがないだろう」とか「買い取ってもらえるような種類の骨董品とは言えない」と先回りして考える必要はありません。ベテランの査定士が見れば「こんなものでも?」と思うような個人のコレクションやキズや汚れのある品物でも買取をしてもらえることがあります。どこに、どういう美術愛好家やコレクターがいるか、幅広く知っていて販路を多数確保している買取専門店は、想定を超える広さで買取をしてくれます。
2 骨董品査定の主な評価ポイントとは?
査定士による真贋の判断方法
少なくとも100年、あるはそれ以上前につくられた美術品や工芸品は、その希少価値の高さから骨董品として珍重されています。しかし、すでに制作者が生存していないこともあり、著名な作家のものなどは贋作も横行しています。経年による変化もあって、真贋の見極めが難しくなっていることも贋作の流通を許容する背景です。真贋をきちんと見分けることは骨董品市場を健全に維持し、品物の価値を後世に引き継いでいくために欠かすことができないものであり、鑑定に当たる査定士の大切な役割でもあります。
査定士たちが真贋の判定に当たって大切にしているのが、まず作家本人の署名や落款です。作家は作品のどこかに自分の制作物であることを示す印を残しているので、まずはその有無が作品の真贋を決定づけるものとなります。
他にも、使われている材料や技法が製作された時代に合っているか、経年変化の具合が製作からの時間の経過にふさわしいか、といったことの検証も欠かせません。
査定士はここを見る
真贋の判定は査定士が最も神経を使う場面です。贋作を真作と取り違えてしまったら致命的なミスになります。
例えば、製作年代が古く、落款がなかったりかすれていたりする掛け軸の場合は鑑定が非常に難しくなりますが、目利きはこんな見極めをしていきます。
まず、一番の手掛かりである署名や落款です。同時期の本人の署名や落款との比較はもちろん、経年と保存状態に見合った変化であるかどうか、不自然に明瞭な印章などは贋作の可能性の高いものです。落款は使用による欠けや摩耗が自然に生まれ、押し方の癖、力の入れ具合などにも個性が出ます。そうした点も慎重に見ていきます。
また制作技法や色使いなどが、その年代の本人のものであるかについてもチェックします。贋作の場合、往々にして、まだその時代には使っていないはずの技法が使われているといった不整合があります。さらに掛け軸に使われた本紙や表具も、真贋を判定するときの重要な手掛かりです。時代によって和紙の手漉きの方法には変化があり、厚みも異なるからです。また表具に使う裂地(きれじ)の製作方法も時代によって異なるので、制作年代に合っているかどうかを見れば、贋作の可能性を発見することができます。
茶道具も長い歴史があり骨董品として珍重されますが、これも真作贋作の入り交じった世界です。茶道具というのは総称で茶碗や茶入、茶筅などのお手前の道具、床の間を飾る掛け軸や花入、懐石に使用するお椀などの食器類、さらに待合や水屋で使う道具類も広く茶道具に含まれます。それぞれについて有名作家の手になるもので花押や署名、落款があり、それが真正なもので保存状態もよいということになれば、非常に価値の高いものとして取引されます。また、銘品と呼ばれる茶道具は必ず箱に入れられていますが、この箱書きに裏千家や表千家の家元の花押が入った茶道具は一段と高い評価が得られます。掛け軸と同様、茶碗をはじめとするさまざまな茶道具についても贋作が多く、査定士の腕の見せ所となっています。
3 骨董品・美術品の高価買取を実現するためのコツ
複数店舗での見積もりを比較
骨董品の世界には定価はありません。そのため査定を受けた場合も一社だけでは「もっと高い価格を付けてくれるところがあるのではないか」という気持ちになります。できるだけ複数の買取店で査定を受け、相場感を得て、安心して売却に進みたいものです。
ただし、2社目が1社目より高かったからと、より高い金額を求めて何社にも査定を依頼すると、手間がかかるだけでなく精神的にも疲れます。相見積もりで一定の相場感が得られ、それと大きな乖離がない価格であれば、感じが良く丁寧に見てくれたところに売却するのが賢い選択です。
また、買取を依頼する品物の種類や数が多い場合は、一括して査定してくれるところに依頼すると手間が省けるだけでなく、全体としての売却額が高くなることがあります。数や種類の多さが価値になったり、買取専門店がどうしても欲しい品物がある場合、他の骨董品も一緒に総額いくらで、という提案が行われることもあるからです。
適切なタイミングや季節要因もある
高価買い取りを実現するコツのひとつに、整理業者に依頼する前のタイミングで骨董品や美術品だけ専門店の査定を受けるということがあります。うっかり価値のあるものを整理してしまうことが避けられるからです。どこまでが査定に出す価値があるものか、ということは素人である依頼側には分かりません。価値のあるものも整理品として一括して出してしまったと後悔することがないように、まず骨董品・美術品の査定依頼をします。また、3月と9月はものの片付けが集中する時期です。買取専門店への依頼も多くなり、出張査定も慌ただしいものになる可能性があります。この時期の依頼は避けるようにしましょう。
4 実際の査定事例のご紹介〜成功と失敗
事例に学ぶ賢い査定依頼
実家の生前整理や遺品整理では処分するものが多く、また時間にも追われることからすべて一括して整理業者に依頼するというケースが多くあります。しかしそれではせっかく価値のあるものが二束三文で引き取られてしまうということが起こりかねません。骨董品・美術品の買い取り専門店である古美術永澤でも、何度もそういう機会に立ち会い、頼んでよかったといっていただきました。実際にお客さまから伺ったお話をご紹介します。
事例① <失敗!>
骨董品もを宝飾品買取専門店に一括して買い取ってもらったが……
父は古道具や美術品・工芸品などが好きで、骨董市などにもよく顔を出して気に入ったものを買ってきたり、旅先の古道具屋さんを訪ねて、おもしろそうなものをよく買っていました。中にはずいぶん高い値段のものもあり、母は「また無駄遣いをして……」とこぼしていました。その両親も相次いで亡くなり、遺品の整理をしたのですが、失敗したと思っていることがあります。それは母の持っていた貴金属類でもらい手のないものをまとめて宝飾品の買取専門店に買い取ってもらった時に、ちょうどいい機会だからと父の集めた骨董品の一部も一緒にお願いしたのです。でもある時、遠方にいた叔父が家に来て「兄貴の骨董品はどうしたの?」と聞くのでいきさつを話すと「それはもったいない。かなり値の付くものもあったはずだよ」と惜しがっていました。無精をせず永澤さんのような専門店に見てもらえば良かったと後悔しています。
事例② <成功!>
骨董品や美術品は古美術買い取り専門店に査定を依頼した
美術が好きで旅が好きだった父は、定年退職後は海外旅行にも頻繁に出かけ、絵や置物、アンティークの工芸品などを買っていました。実家を整理することになって改めて納戸や物置を整理すると、そういう時の買い物と思われるものがたくさんありました。一つひとつ見ている暇がないので一括して整理業者に任せようと思ったのですが、弟から価値のあるものがないとも限らないから、まず古美術品の専門店に見てもらった方がいい、とアドバイスをもらって古美術永澤さんに依頼しました。すると、まったく価値があるとは思わなかった古い置物が、高価で取引されていると教えてもらい、実際、そのほかのものも含めて予想以上の金額で買い取っていただきました。
事例③ <成功!>
実家の遺品整理前にいくつかを画像で送って相談、その後出張査定してもらった
遺品整理前に兄弟で実家に集まり、処分しなければならない荷物がどれくらいあるか調べたところ、押入や納戸からたくさんの骨董品や美術品、コレクションが出てきて、「どうする?」ということになりました。骨董品の類いは価値があるようには見えないとはいえ、不要品として処分するのは抵抗があります。すると一番下の弟が、今はLINEなどを使って画像で事前相談ができるところがあると教えてくれたので、古美術永澤さんにいくつかの品物を撮って送りました。すると趣味の良いものばかりだからぜひ他のものも見たい、出張査定をします、といっていただくことができ、後日、来てもらいました。実際、これは価値があると言っていただけるものも多くあり、その場で現金買取していただけました。やはり骨董品は素人には分からない世界ですね。事前に相談して良かったとあらためて思いました。
5 骨董品・美術品に込められた想いをつないでいく
価値がなさそうと決めつけずに、専門家に見せる
実家の生前整理や遺品整理はその量の多さに圧倒されるだけでなく、いつまでに荷物はすべて搬出し、掃除も済ませて明け渡すと、スケジュールに追われることもあります。そのため「片付けいっさいを請け負います」という整理業者に依頼しがちになりますが、それでは価値のあるものをみすみす不要品として扱ってしまうということが起こります。素人目には汚れやしみがあるという品物でも、希少性が高ければ高額で取引される可能性があります。骨董品や美術品は、その愛好家の間だけで成り立つ独自の評価軸があり、古美術品の買取専門店の目で見てもらうことが実際に即した評価につながります。
気軽に相談したい出張査定やLINE査定
骨董品や美術品の査定に出そうとするとき、多くの人は「美術の専門家に見てもらうほど価値のあるものではなない」と気後れを感じてしまいます。しかし、そうした心配は無用です。査定をする査定士も同じ骨董品や美術品の愛好家であり、仮に価値の低いものや贋作であったとしても、それを好んで所有していた人には親近感もあり、決して下に見るようなことはありません。また、最近はLINEを使い、画像だけで簡易査定や今後の買取の検討などを手軽に依頼できるようになっています。写真を送るだけですから「わざわざ出張してもらって、無駄足になったら悪い」というような遠慮も要りません。大いに活用して、次のステップにつなげていけば良いと思います。
「幅広く見てもらう」「専門家に依頼する」「要らない遠慮はしない」――この3つを念頭に、ぜひ骨董品、美術品の価値を次の人につないでください。
担当
骨董買取コラム編集室
骨董目利き修行者
将来、古美術商になるため古美術永澤で修行中。愛読書は廣田不孤斎の歩いた道。